「ご多幸」を正しく使いこなして気遣い上手な社会人になろう

「ご多幸をお祈りいたします」は手紙やメール、スピーチなどの結びによく見かける表現ですが、知識として理解はできても、実際に使っている人はそう多くはないものです。好印象を与える気遣いを表す表現「ご多幸」の使い方を学んでみましょう。

「ご多幸」を正しく使いこなして気遣い上手な社会人になろう

「ご多幸」をちゃんと使える人は印象が良い

ビジネスメールや様々な文書の結びの文で、「ご多幸をお祈り申し上げます」と書かれているのを見たことがある人は多いでしょう。上品で丁寧な言葉遣いは、その気遣いと共に文章から人柄を感じさせ、印象を良くする効果があります。

しかし、「ご多幸」などのフレーズは、わかっていてもなかなか使えないもの。実際に使うことを目標に、「ご多幸」の意味や用法について学んでみましょう。

「ご多幸」は「幸せなことがたくさんある」という意味

「ご多幸」は「ごたこう」と読み、言葉の意味は、その文字が示す通りに「幸せなことがたくさんある」となります。「ご多幸」は「とても幸せ」という状態を表すものとは、ややニュアンスが違いますので注意してください。

「幸せなこと」とは健康なことや、経済的な成功、出世、子孫繁栄など様々な意味を含んでいますので、相手を気遣う際に一言で済む便利なフレーズです。

「ご多幸」はビジネスシーン、プライベートシーン共に使える

「ご多幸」は主に文書で用いられ、「ご多幸をお祈り申し上げます」とお祈りの形で使われます。「あのご家庭、とてもご多幸なんだそうよ」というように会話で使われることはありません。

そもそも「幸せ」というものは、個人の価値観に左右されるものですので、周囲の人が「あの人は幸せなことが多い」とは言うことができません。そのために「漠然と」幸せなことがたくさんあるように「願う」「祈る」形で使うのです。

「ご多幸」はビジネスシーンでよく見ることにはなりますが、決してビジネス用語ということはありません。プライベートでも使用することのできる表現です。

「ご多幸」と「ご健勝」の使い分け

「ご多幸」と並び、文書における結びのフレーズの定番となっているのが「ご健勝」です。「ご健勝」には「すぐれて健康であること」という意味があり、文章の結びにおいて「ご健勝をお祈り申し上げます」のようにお祈りの形で使います。

基本的には「ご多幸」も「ご健勝」も相手にとって良いことを祈るものであり、同様の意味で使われることも多いです。特段使い分けが必要なシーンもありませんので、どちらを使用しても問題はありません。

ただし、「ご多幸」の中には「健康であること」も含まれていると考えることができますので、「ご多幸」の方が広い範囲での幸せを願い、「ご健勝」はより健康に重きを置いた言葉だと考えることができます。相手が病気を持っている、高齢であるなどの健康上の配慮がより重要だと感じられる場合はご健勝の方が良いでしょう。

また、使い方として「ご健勝ご多幸をお祈り申し上げます」と併記しても構いません。用法や状況判断に自信がなければ、「ご多幸」と「ご健勝」を併記しておけば大丈夫です。

高齢の方に送る手紙にご健勝を加える若者

「ご多幸」はどのように使う?

では、「ご多幸」を実際に使う場合を考えてみましょう。例文としては「●●様のご健勝とご多幸をお祈りいたします」というような使い方をします。

「ご多幸」は一般的に、お祈りの形で用いられます。「ご多幸でね」とは言わず、丁寧に「お祈りいたします(お祈り申し上げます)」や「願います(願っております)」など丁寧な形でのお祈りが続きます。「ご多幸」が固さのある表現なので、その後は「お祈りします」「願います」などの柔らかさのある表現がしっくりきます。

「ご多幸を祈念します(祈念いたします)」という表現もできますが、かしこまった場でなければやや大げさですし、スピーチでは音が同じ「記念」と混同されやすいので避けた方が良いでしょう。

「ご多幸」は複数人の相手に対しても使える

「ご家族の皆様のますますのご多幸をお祈り申し上げます」という例文のように、「ご多幸」は個人が相手の場合だけでなく、複数人が相手の場合でも用いることが可能です。

ただし、人間が相手であるという前提があり、法人相手に「●●株式会社様のご多幸をお祈りいたします」とは使うことはできません。そのため、法人などの団体の名前を出す場合は、人間を相手にして話していることを伝えるために「~の皆様」という形で表現します。

また、「ますますの」は結びの文において「ご多幸」「ご健勝」「ご活躍」などと一緒に使われる常套句です。良いことがあるように願う気持ちを強める効果がありますので、気持ちを込めたい時に使うと良いでしょう。

シチュエーション別「ご多幸」を使った例文

ここで、シチュエーション別に「ご多幸」を使った例文を見てみましょう。ビジネスシーン、プライベートシーンでの使い方をそれぞれ紹介するので、ぜひ参考にしてください。

手紙・メールの挨拶文で「ご多幸」を使う時の例文

手紙やメールの挨拶文では、どのように「ご多幸」を使えばいいのでしょうか。退職時の挨拶文を例に挙げてみましょう。

退職の挨拶文で使う「ご多幸」の例文

全社の皆様

お疲れ様でございます。総務部の●●です。

この度、35年にわたってお世話になりました■■株式会社を、一身上の都合で退職することとなりました。今後は▲▲県の実家に戻り、家業を引き継ぐことになっております。

まだ若い会社と共に成長して参りましたし、社員の皆様との良き思い出も多く、名残り惜しさは尽きることはありませんが、次の一歩を踏み出していきたく存じます。皆様、大変お世話になりました。

末筆にはなりますが、社員の皆様のご多幸と、■■株式会社のますますのご発展をお祈り申し上げます。

「ご多幸」は基本的に手紙やメールなどの文章の結びで使われます。相手に対する気遣いを示すことができます。そして、企業などの法人相手には使いません。法人相手には「ご発展」「ご清栄」などを用います。

「ご健勝」であれば「◎◎様におかれましてはますますご健勝のこととお慶び申し上げます」という挨拶で冒頭に使うことがありますが、「ご多幸」が冒頭に来ることはありません。

「ご多幸」は何らかの節目の時に使う言葉

「ご多幸」は文章の結びで用いますが、普段からのメールのやり取りなどで使うことはなく、何らかの節目で使うべき表現です。主には別れのタイミングや、誕生日などのお祝いの際に用いられます。

  • ×:「本日の会議の議事録を送付いたします。課長のご多幸をお祈り申し上げます」
  • ○:「今回の企画では大変お世話になりました。またの機会にご一緒にお仕事させていただけましたら幸いです。ご協力いただいた皆様のご多幸をお祈りしております」
  • ○:「本日はお誕生日おめでとうございます。●●さんの一層のご活躍とご多幸をお祈りいたします」

謎のご多幸お祈りメールをもらった課長とハイレベルなメールを送ったとドヤ顔の新人

スピーチで「ご多幸」を使う時の例文

スピーチの際には、どのように「ご多幸」を使えばいいのでしょうか。結婚式でのスピーチを例に挙げてみましょう。

結婚式のスピーチで使う「ご多幸」の例文

只今ご紹介に預かりました●●です。■■家、▲▲家の皆様、この度のご結婚を心よりお慶び申し上げます。

若い二人が社内で成長し、交際を重ねて行く様を近くで見つめて参りました。仕事に支障が出るようなら、一言喝を入れてやろうといくばくのイタズラ心を持ちながら見つめておりましたが、思惑は外れ、むしろ熱心に業務に取り組み、◎◎君は先日の人事考課では見事に昇進を果たしました。二人とも部内のエースとして、また若手からは格好のお手本として、高い評価と信頼を集めています。素敵な結婚を迎えたのも当然と言うしかございません。本当におめでとう。仕事も家庭も一層頑張りましょう。

最後になりましたが、新郎新婦と両家の皆様、そして本日の席にご列席いただきました皆様のご健勝ご多幸をお祈り申し上げ、挨拶とさせていただきます。

口頭での挨拶やスピーチにおいても、「ご多幸」は定番の表現です。やはり文書の場合と同じく、結びの文章の中で使用します。

弔事などの挨拶やトラブルの報告会見で「ご多幸」は使わない

特別に注意することはありませんが、基本的に「ご多幸」を用いるのはお祝いの席や、良い発表があった場合のみです。弔事などの挨拶やトラブルの報告会見で「ご多幸」は使うべきではありません。

  • ○:「本日、お集まりいただいた皆様のご多幸とご健勝を祈念いたしまして、乾杯で本日の会を始めていきたく存じます」
  • ×:「この度は●●様のご逝去の報を非常な驚きで迎えることとなりました。生前の元気で溌剌としたお姿が今でも目に浮かびます。ご家族の皆様におかれましては、お力を落とさず、心を合わせてお過ごしいただけたらと存じます。故人のご冥福とご家族のご多幸をお祈り申し上げます」

年賀状など季節の挨拶で「ご多幸」を使う時の例文

最後に、年賀状などの季節の挨拶文の中で使う「ご多幸」の例文を見ていくことにしましょう。季節の挨拶文でも「ご多幸」はよく使われます。

年賀状の挨拶で

新年あけましておめでとうございます。
旧年中は、大変お世話になりました。本年もよろしくお願いいたします。
本年も皆様のご活躍とご多幸を心よりお祈り申し上げます。

年賀状や暑中見舞いなど、季節の挨拶の中でも「ご多幸」はよく登場します。こうした挨拶の中では定番のフレーズとなっていますので、書く機会があればぜひ使ってみましょう。特に相手によって表現を変える必要がありませんので、大量にハガキを印刷する場合でも表現はそのままで大丈夫です。

「ご多幸」は目上の人にも使える

「ご多幸」というのは相手の幸せを願う言葉です。「ご(御)」がついていることからもわかるように、かしこまった丁寧な表現です。そのため、敬語調の文章中で使われる表現です。

しかし、「ご多幸」という単語だけで敬語になるわけではありませんし、「ご多幸」という言葉は慣用句化していますので、特別に敬語扱いされるようなものでもありません。ビジネスマナー上の敬語というレベルであり、年齢や立場に関係なく使うことができる表現です。

「ご苦労さまでした」と目上の人に言うべきではないように、敬語では相手をねぎらったり、相手の成功を願ったりすることなどが失礼にあたる場合もありますが、「ご多幸」は目上の人が相手だとしても、決して失礼さを感じさせる表現ではありません。むしろ相手の幸福を願う表現ですので、その気遣いを喜んでもらえるでしょう。

「ご多幸に漏れず」という言い方は間違い

「ご多幸」の用法の間違いで多いのが、「ご多幸に漏れず」というものです。正しくは「ご多分に漏れず」で、「他の多くの人(=多分)と同様に(=漏れず)」という意味になります。「ご多幸に漏れず」は意味としても変わってきますし、このような表現自体がありません。

ご多幸とご多分に漏れずを混同する会社員

古文や戦前の文章などでは「ご多幸」という言葉の使い方も様々な形が見られますが、現代では「ご多幸」を使う表現は文末の「ご多幸をお祈りいたします」に類する表現くらいのものです。その他の使い方はしないように注意しましょう。

なお、「多幸」のみで用いた場合には、「本人の状況に合わない爽快、幸福感を感じている状態」を表すことがあります。そのため、目上の人じゃないからと「多幸」のみを使うと失礼になってしまうこともありますので気をつけてください。

  • △「お前の健康や多幸を祈っているよ」
  • ○「●●様のご健勝ご多幸をお祈りしております」

「ご多幸をお祈りします」と言われたら感謝を別の表現で伝えよう

「ご多幸をお祈りします」とスピーチの中や手紙やメールの文中で言われた場合には、どう返事をしたら良いでしょうか。基本的には、結びの挨拶ですので特にこの部分に返事をする必要はありません。ビジネスであれば、本題の部分に対して返事なり反応を見せるのがマナーです。もしも反応を見せたいのであれば「お気遣いいただきまして感謝いたします」など、気遣い、心遣いに対しての感謝を示すのが良いでしょう。

「ご多幸をお祈りします」に対して「ご多幸をお祈りします」と返すことはできなくありませんが、この場合のオウム返しはあまり良い反応ではありません。まずは感謝で応えるのがベストなやり取りで、別の表現で気遣いを見せるようにしましょう。

  • ×「私からも■■様のご活躍とご多幸をお祈り申し上げます」
  • ○「お気遣い誠に感謝いたします。■■様におかれましても、どうぞご自愛くださいませ」

「ご多幸をお祈りします」の英語表現

「ご多幸をお祈りします」に類する表現は、英語にもあります。英語では”I wish you will be happy”や”I wish you a happy new year”などの表現になります。相手に対して願いや祈りがストレートに表現されていますので、日本語よりも使いやすいかもしれません。実際、日本語と比べてややカジュアルな趣があります。

英語では相手に願う場合に”hope”も使うことができますが、”wish”と比較すると実現可能性が高い場合に使います。相手の幸せという漠然とした願いであるため、表現としては”wish”を使うのが適切なことが多いです。

「ご多幸」を使いこなして相手への気遣いを示そう

手紙の文面や挨拶で、相手に対する気遣いを見せることは社会人として欠かせない大事なマナーです。気遣いをスマートに示すためには、語彙を増やすだけでなく実際に普段から使うことができなければなりません。「ご多幸」も知識にするだけではもったいない素敵な言葉ですので、ぜひ普段から使いこなして相手への気遣いを示しましょう。