「落としどころ」の意味と例文どんなニュアンスで使えばいい?

「落としどころ」はビジネスで何気なく使われているフレーズですが、その本来の意味や類語のニュアンスを知っておくと、話の結論をより良い方向につなげられる可能性があります。「落としどころ」を中心に、用法などを例文と共に解説します。

「落としどころ」の意味と例文どんなニュアンスで使えばいい?

ビジネスで使われる「落としどころ」はどんな意味で使えばいい?

ビジネスは交渉の連続であり、その交渉の結果次第では自分や会社に回ってくるリターンが大きく変わってきます。だからこそ、交渉力は非常に重要なビジネススキルとなっていますが、交渉力とは別の表現をすると「落としどころを見つける力」とも言えます。

この「落としどころ」は割とよく使われていますが、本来の意味と少し違うニュアンスで使われており、それが考えや行動を束縛している場合があります。正しい意味や使い方を確認していましょう。

「落としどころ」の正しい意味

「落としどころ」の正しい意味

「落としどころ」を辞書で調べてみると、「双方が要望を少しずつ譲歩し、妥協し合って決めた、両者とも納得できる条件」という内容が書かれています。

これが多くの人がイメージする「落としどころ」であり、決して間違っているわけではありません。しかし、普段使われている「落としどころ」には「妥協」という少しマイナスなイメージがつきまとっています。

本来、「落としどころ」の意味するところは必ずしも妥協点ではありません。「落とす」という言葉には、話の最後を「オチ」と言うように、「終わる、締めくくる」という意味もあります。ですから、「落としどころ」というのは「交渉事の終わりの形」というのが本来の意味です。ただ、利益相反する関係者の中から良い終わり方をしようと思えば、ある程度妥協が必要になるためにそういうニュアンスになってしまっているのです。

「落としどころ」という言葉そのものには、そこまで妥協のようなネガティブなニュアンスは無く、交渉や会議の場で得られた新しいアイデアなどを折衷してより良いものを探すという場合にも使われています。

「落としどころ」が使われるビジネスシーン

ビジネスで落としどころが使われるシーンは多くの場合3つに分けられます。どのようなシーンで使われるか確認してみましょう。

会議で使う「落としどころ」

社内で行われる会議では、他社との案件に関しての落としどころを相談したり、また会議をどのように結論づけていくかが求められる場面で使われます。

  • 「今回のA社との交渉の落としどころとしては、数量を減らしてこちらのコストを削減する分、相手側に納期の面で余裕をもたせる形にしてはどうでしょうか?」
  • 「前回の会議でもそうだったが、○○の議題については参加者の意見が3つに割れていて収拾をつけるのが難しい。うまく落としどころが見つかればよいのだが」

商談や交渉での「落としどころ」

商談で落としどころを探るビジネスマン

商談や交渉の場面において、落としどころを模索する場合も少なくありません。ただ、この場合は双方の会社の営業担当者や代表者が、交渉の席に着いた者どうしで「双方の会社にとって利益になる状態」である「落としどころ」を相談することになります。この時、交渉にあたる人たちは「交渉をまとめる」という共通の目的があります。

  • 「この件の落としどころですが、御社の●●の意見を受け入れ、こちら側の△△に関する提案を承諾いただくということでいかがでしょうか?」
  • 「こちらとしては、◎◎は欠かせないと社長も言っておりますので、落としどころとしては◎◎は大丈夫だが、他の条件は全て飲むというところでいかがでしょうか?」

気持ちの整理などに使われる「落としどころ」

多い用法ではありませんが、時には自分の気持ちをどこに持っていくかという気持ちの整理のために「落としどころ」という言葉が使われることもあります。

  • 「昨日、部長に叱られた件で納得がいってなくて、まだ気持ちの落としどころで悩んでるんだ」

「落としどころ」を使った例文

「落としどころ」を使った例文を見ながら、その用法やニュアンスを考えてみましょう。紹介する例文は2つです。

「落としどころ」を使った例文1

「落としどころ」を使った例文1

●●部長、お疲れ様でございます。

先日、A社に営業訪問してきた際に、製品Aについてご検討いただけることになりました。

ただ、先方の予算的な条件が厳しく、予算内に収めようと思うと定価の85%程度で販売しなくてはならないようです。期末も近く、来期以降にもつながる案件ですのでぜひとも受注したいのですが、落としどころについてご相談させていただけませんか?

何卒、宜しくお願い申し上げます。

この例文1は、社内メールでの相談で「落としどころ」が用いられています。

「落としどころ」が使われるのは、このケースのように双方の希望がそのままでは通らない、互いの利益が衝突しているような場合です。ビジネスは必ずしも「10:0」で決着をつける必要はなく、「7:3」でも「5:5」でも双方が納得できれば良いのです。たとえ「9:1」だとしても、双方にとって益のあるwin-winの状態を作り出すのが「落としどころ」を探すことでもあります。

双方にとって益のあるwin-winの状態

「落としどころ」は、その場の決着や損得だけではなく、このメールで話し合われているように「来季以降にもつながる」などの将来的なメリットを見込んで「貸しを作る」など様々な方法で模索されています。

もしもこの相談を「ゴールについて相談させてください」と言ってしまうと、相手企業とのパワーバランスによっては「何がなんでも受注を取るための作戦」や「可能な限り10:0で条件を飲ませるにはどうしたらいいか」という極端な話し合いが行われることになるでしょう。言葉のニュアンスは結果を左右しますので大切にしましょう。

「落としどころ」を使った例文2

「落としどころ」を使った例文2

「今度の予算会議ですが、財務部からは、やはりIT部門の予算は削ってほしいという要望が来ています」

「困ったなぁ。そろそろ古いシステムのリプレースを検討したいので、そのための予算を確保しておきたいし、リースやレンタルの機器も年々増えているので使える予算がどんどん狭まっているのに」

「では、落としどころとしては、今年はシステムのリプレースは諦めるということにして、その代わりに稼働率の低いレンタル機器は、早期に返却を検討することで許可をもらうのはどうだろう?管理も楽になり、予算も多少楽になるから」

お互いの利益になる結論を出す

部内の会議の様子から、「落としどころ」を探る様子を抜き出したのが例文2です。

「落としどころ」を探すためには、自分側と相手側の双方の要望がしっかり理解できていることが大事です。その要求が交渉のためのカードになります。

財務部側の要望は「予算を削ってほしい」であり、IT部門の要求としては「古いシステムのリプレースのための予算がほしい」です。この例では、直接的にこの要求に関わるものではありませんが「リースやレンタルの機器が増えていることによる使える予算枠の減少」も部門の悩みになっていて、この部分の改善案を承諾してもらう代わりにシステムのリプレースのための予算を諦めるという提案を考えています。

「落としどころ」を探すのは勝ち負けを決めることではなく、互いにとって益のある提案はないかを探すことです。社内でも、社外でも、落としどころが必要な場面はたくさんありますので、上手く落としどころを見つけ、納得させることができる人は頼られます。

一方で、「落としどころ」と言いながらも相手にメリットのない提案をしてしまうと、ビジネスのセンスがないと思われたり、相手を不快にしてしまいますので気をつけてください。

「落としどころ」を探すのはビジネスパーソンの上級スキル

納期と量の交渉の落としどころ

落としどころがどこになるかで、交渉事の結果受けられる有益は大きく変わってきます。だからこそ、この落としどころについては上長などに確認して了解をもらう必要があったり、または上長にしか決定権が無いものです。

それだけの重要かつ難しいスキルであり、誰にでも任せられるものではないのですが、落としどころはいくつかのパターンを知っていると探しやすくなります。覚えておくとビジネスパーソンとしての成長につながります。

たとえば、「量」です。「本来は500のところを1000にしてもらうことで相手に納得してもらう」など、量について自分が不利な条件を飲み、そのかわりに相手にこちらの言い分を飲んでもらうという方法が取られています。

また、ビジネスで多いのが「納期」です。「特急作業になりますので、通常の2割増しの料金とさせていただきたい」というようなパターンです。

その他にも、支払い方法に制限をつけたり、別の分野で条件をつけていくことで交渉の結果を自社にとって有利な方向に向けていくのです。この場合の有利というのは、「利益やメリットが大きい」「リスクや損失が少ない」ということです。それを5W1Hなど色々な方法で検討して考えてみることが「落としどころ」を探すトレーニングになります。

「落としどころ」は必要がない場面もある

プレゼンテーション

「落としどころ」を探すことは、ビジネスの場では非常に重要なスキルなのですが、「落としどころ」を考えてはいけない場面もありますので気をつけてください。

ディベート

「ディベート」は、まず結論ありきで互いにその主張をする場面です。そのため、相手側の主張がどうであれ、落としどころを探す必要はなく、自分側の主張を根拠づける内容を話していけば良いことになります。

プレゼンテーション

プレゼンテーションの場面では、基本的に話者は自分の伝えたいことを一方的に聴衆に伝えることになりますので、その場で相手の要求を聞いたり、それを聞いて落としどころを引き出す必要はありません。プレゼンテーションの内容そのものが落としどころの提案である場合はありますが、プレゼンテーション中に他の落としどころを考えることはありません。

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アイデア出し

ブレインストーミングなどのアイデア出しの場面では、相手の意見を否定しないという前提の中で自由にアイデアを口にするのが好ましく、落としどころを探る必要はありません。逆に落としどころを考えるクセがついていると、周囲の発言に縛られてしまって柔軟な発想ができない場合があります。

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「落としどころ」の類語表現

「落としどころ」の類語表現

「落としどころ」には同じ意味を持つ類語がありますので、場合によっては類語で表現することもできます。「落としどころ」の類語について、その表現とニュアンスを確認してみましょう。

妥協点

「妥協」という言葉には、「対立した事柄について、双方が譲り合って一致点を見いだし、おだやかに解決すること」という意味があります。「落としどころ」と比較すると、「おだやかに解決する」を最も大事にしているというニュアンスが強くなります。そのため、相手によってはネガティブ、弱気な考えという印象をもたれることがあります。

折衷案(せっちゅうあん)

「折衷」というのは、「二つ以上の異なるものを合わせてより良いものを作ること」という意味を持ちます。基本的に悪い意味は無いのですが、本来は自分の意見を100%押し通したいが、そうできない場合に「妥協」と同じような意味で使われるケースもあります。「A社側の意見との折衷案でいきたいと思う」などと使いますが、「折衷案」そのものが落としどころであり、落としどころが意味するところとは少し違うことが多いです。

ゴール

ビジネスの場では「ゴール」という言葉も「落としどころ」という意味で使われることがあります。この場合の「ゴール」は「目的」と言った方がより適切で、「落としどころ」が本来持っている「交渉をどのような形で終わらせるか」という形を示したものと言うことができます。よりポジティブで、妥協点や折衷案よりも自分側にとって都合の良い結果を目指している場合に用いられます。

折り合い

「折り合い」もまた、「落としどころ」と同様の意味で使われます。ただ、「落としどころ」ほど話を結論づけるというニュアンスではなく、「調整をする」ニュアンスに受け取られます。意見の対立から、話し合いの雰囲気が悪くなってきた時によく使われています。

収拾(しゅうしゅう)

時には「収拾」も「落としどころ」と似たようなニュアンスを持つことがあります。「収拾をつける」には「物事を解決する、終わらせる」という意味がありますが、多くの場合、「混乱している状態を落ち着かせる」というニュアンスで使われます。会議などでは、様々な意見が紛糾している状態からひとつに意見をまとめる過程で「落としどころを探す」と使いますし、その結果「収拾をつける」ことになることが多いです。

「落としどころ」はビジネスの行方を左右する言葉

「落としどころ」は商談や交渉事の終わりの状態を描き、それを実現するために様々な作戦を立てていくために重要です。しかし、「落としどころ」「妥協点」「ゴール」など、ニュアンスの似ている言葉のどれを用いるかで、話し合われる内容や結果に違いが出てしまうことに注意しましょう。

普段、「落としどころ」と何気なく使っている場面で、もう少し表現に気を遣ってみるとより良い結果を生み出すことができるようになる場合もありますので、ぜひ言葉の選び方を見直してみてください。