出勤停止は真面目に働いていても起こる
会社勤めになると規則正しい生活が求められます。朝9時には出社して夜6時には業務を終えるといった正しさではなく、就業規則に則り適切な業務ができているという意味での正しさです。よく会社側が就業規則を理解しておらず事件に発展することがありますが、従業員や会社員の方が違反してしまい、懲戒処分や業務命令を受けることも珍しいことではありません。
会社側から従業員や社員に下すことができる制裁には退職、出勤停止があります。2つの制裁を自分には関係のないものだと決めつけないでください。とりわけ出勤停止という制裁は真面目に働いていても受ける可能性があるものであり、どういった意味なのか理解しておく必要があります。
出勤停止の意味
出勤停止とは「会社に来なくていいよ」という処分です。学校でいうところの停学と一緒です。出勤停止となる期間内では一般的に会社に入ることができません。文字通り出勤停止は出勤を停止させることですので、社員として会社に赴くことはできなくても一般人として赴くことは禁止されていません。
すこし専門的な内容になりますが、出勤停止には2つの種類があります。2つの出勤停止にどのような違いが出てくるのかについて整理しておきましょう。
処分としての出勤停止
一つ目は懲戒処分として出勤停止を命じる場合です。懲戒処分を下された場合では指定された期間において出勤することはできず、会社はその理由を明確にしなければなりません。なぜなら従業員あるいは社員が重大な隠滅あるいは隠匿など会社に多大なダメージを与える行為を行い、その事実が確認されているはずだからです。
懲戒処分を下すためには2つのポイントがあります。
- 就業規則に明示されている
- 責任が当該の従業員あるいは社員にある時
まず、就業規則として従業員あるいは社員に認知させているかが問題です。例えば学校に携帯電話をもってきてはならないと知らない生徒たちは当然携帯電話を持ち込みます。そこで、教員が不適切と感じて携帯電話を没収することはできません。しかし、生徒手帳にその旨が記載されていれば没収が可能となります。このようなシンプルなルールは懲戒処分の際にも適用されます。
雇用者側の一方的な考えによって懲戒処分を下すことはできません。必ず責任の所在が該当社員にあり理由を明示できなければ行使することはできないのです。
命令としての出勤停止
二つ目は業務命令として出勤停止を言い渡される場合です。業務命令は、業務上で必要な時に示すことが可能です。示す際に責任の所在がはっきりしておらず、疑いがある場合においても行使することができる点で大きく異なります。業務命令としての出勤停止は上長の権限をもとに示されることですが、2つの注意点があります。
- 就業規則での記載は不要
- 法的拘束力はない
あくまでも上長が持つ権限で行使されることですので、就業規則に記載がなくとも示すことができます。ただし業務上の必要性が明示できなければ、従業員並びに社員は拒否することが可能です。なぜなら、不当な業務命令は会社全体のみならず、従業員や社員の生活に影響を与えてしまうことだからです。
命令に法的な拘束力はなく、上長から部下へのお願いごとですので強制的に行うことはできません。もし法的拘束力や強制力を持たせたいのであれば、処分として示さなければなりません。真面目に働いても出勤停止になるケースは、業務命令であることが多いです。
自宅待機と懲戒休職との違い
出勤停止に関しては誤解されやすい二つの命令あるいは処分があります。雇用者側つまり命令や処分を発現する方にも誤解したままになっていることが珍しくありません。ゆえに幅広い方に誤解を解いてもらう必要があります。
自宅待機
出勤停止=自宅待機ではありません。「人身の自由」(憲法18条)を勘案しても、いかに懲戒処分であれども自宅待機を強要することは難しいです。そもそも自宅待機というのは「会社に来なくてもいいからおとなしくしていなさい」、あるいは処分が決まるまでの期間として適用されることが多いです。
つまり自宅待機というのは、四六時中自宅にいなければならないということではなく、外出は必要最低限にして、余計な疑いを持たせないようにするための処置です。過度の外出というのは遠慮するべきですが、買い物や散歩ぐらいならば問題ないでしょう。
稀に自宅待機を命じられている最中にアルバイトを行う方もいますが、就業規則に禁止する旨が明示されていなければ、法的な拘束力を発揮することはできません。
懲戒休職
懲戒休職とは、就業規則に論拠があり、事実を証明する証拠が揃っている状態で該当従業員あるいは社員に一定期間の休職を命じることです。法的拘束力もあるため、内容に疑う余地がないと判断できれば甘んじて処分を受けなくてはいけません。
出勤停止と異なる点は、必ずしも法的拘束力があるわけではないという点です。出勤停止に関しては懲戒処分と業務命令の2種類がありました。懲戒休職は、懲戒処分の出勤停止に似ています。ただし、懲戒休職は職自体が止まっている状態となるため、会社に在籍しながらも給与の発生は望めません。
出勤停止中の給与
出勤停止に関しては2種類がありましたが、期間中の給与や賃金の支払も2種類の内どちらかで大きく異なります。つまり、先ほど申し上げた懲戒処分としてか業務命令としてかの区分には、大きな違いが表れていることになっています。
懲戒処分の場合
懲戒処分として出勤停止あるいは待機命令を下すことは、業務を雇用者の意思をもって滞らせることに他なりません。法的根拠があるとはいえ、被雇用者は業務遂行の意思があっても阻害される形となるため、阻害される分の損害については責任を雇用者に課すことができます。
ただし、懲戒処分として成立する場合には、事由に明記される会社側の損害に応じて減給処分を行うことができます。そしてこの場合は、減給額の限度を定めた労働基準法91条の規定を適用することはありません。つまり出勤停止期間中の賃金が無給になることも考えられます。
業務命令の場合
業務命令は上長が業務上必要と判断した場合に行使されることを述べておきましたが、法的拘束力はなく拒否することも可能となっています。ゆえに、命令を下す際には丁寧に説明しておくことが求められます。
また、会社都合による一方的な命令であるため、減給額の限度を定めた労働基準法91条の適用が認められます。この規定により、通常の給与の6割程度の賃金は保障されることになります。
出勤停止期間の相場
出勤停止処分に関しては期間の問題があります。どの程度の期間出勤停止にしておくべきかというのは事由にもよりますし、法的に定めがあるわけでもありません。
西日本鉄道出勤禁止処分効力停止等仮処分申請事件(福岡地裁 昭和48.4.3)では4か月以上もの出勤停止処分が言い渡され、給与は通常の6割程度で賞与はなしの状態が続いていることについて不当であるとの判決が出ています。出勤停止処分については懲戒処分が決まるまでの猶予期間として捉えられ、本件のように長期間の停止には最終的に排除しようとしているため不当であるということになっています。
不当な期間がどの程度かについては定まっていませんが、通常では2週間程度とされています。福岡地裁の判決からも分かるように、長期にわたる出勤停止処分というのは、会社から直接処分せず、自主退職のような形を取らせて排除させようとする意図を感じずにはいられません。よって、1か月以上にわたる出勤停止に関しては、余程の事由が無い限り不当とみなされることになるでしょう。
労働基準法における出勤停止の扱い
労働基準法において、出勤停止に関する規定は91条に記載されています。労働基準法に則る場合は、懲戒処分としての出勤停止は排除され、業務命令の場合に限られます。
91条の記載の中には、「1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」という減給制裁に関して書かれています。また、労働契約あるいは賃金は直接労働者に支払うとする労働基準法24条と照らし合わせて、合理的であると判断できることが重要とされています。
つまり、労働基準法においては、従業員並びに社員の保護を目的としているため、従業員あるいは社員に責任がある場合においては適用されず、会社都合による場合においては91条と24条を勘案する必要があることを覚えておきましょう。
出勤停止に対して知識を深めておくことが大切
法律の解釈というのは杓子定規ではなく、ものは言い方である部分が多いです。そのため、正当性が証明できず不当に制裁を受ける場合も少なくありません。法律に対して知識を深めておくことは重要ですが、初めにどのような事態が予想できるか考えることが大切です。雇用者側も自分の考えを業務命令や懲戒処分に入れ込むのではなく、法的な意味合いというものを理解しておくようにしてください。