フレックスタイムで残業代は出る?給与見直しのための正しい計算方法

フレックスタイム制は残業代がないと思われがちですが、裁量労働制とは根本的に違いますので、法律上も残業が明確に存在しています。計算方法がやや複雑ですが、正しく知っていると正当な給与が支給されているか確認することができますので計算の方法を覚えておきましょう。

フレックスタイムで残業代は出る?給与見直しのための正しい計算方法

フレックスタイム制は残業代が発生しないというのは間違い

フレックスタイム制は、自由な時間に従業員が業務を行うことができる労働形態で、働き方改革によって導入企業の増加が見込まれています。しかし、まだその仕組みについて誤解されていることも多く、中でも特に多いのが「フレックスタイム制では残業代が発生しない」というものです。

実際のフレックスタイムでは、残業代も発生しますし、残業代を計算するためのルールも定められています。就業規則や実際の運用におかしなところがないかを正しく把握して確認することが大切です。

フレックスタイムの残業代についてのポイント

フレックスタイム制での残業代については、以下のポイントが重要となります。これらのポイントをしっかり頭に入れておくようにしましょう。

フレックスタイム運用について労使協定がしっかり結ばれているか就業規則を確認する

フレックスタイム制が正しく運用されているかを確認するためには、労使協定で様々な項目について一方的になっていないかチェックする必要があります。特に、次のものが重要な項目となります。

  • 対象となる労働者の範囲
  • 清算期間
  • 清算期間中の総労働時間
  • 1日あたりの労働時間
  • コアタイムとフレキシブルタイム

労使協定で定められた内容は就業規則に明記されています。始業時間や就業時間については、就業規則に絶対に明記が必要な項目になりますので、フレックスタイム制の場合のコアタイムやフレキシブルタイムに関する記述も必ず載せる必要があります。就業規則に定めのないフレックスタイムは、違法と判断されるケースが多いので必ず確認しましょう。

フレックスタイムでは実労働時間が総労働時間を超えると残業代が発生する

実労働時間が総労働時間を超えると残業代が発生する

フレックスタイム時は、基本的に実労働時間が総労働時間を超えると残業代が発生することになります。ただし、残業代の中でも割増賃金が適用されるのは、実労働時間が法廷労働時間を上回った時間に限定されます。

また、制度上、実労働時間が所定労働時間を超えた場合は翌月への繰越が可能ですが、繰越した労働時間を含めた実労働時間が総労働時間の枠を超える場合は残業代が発生することになります。2019年4月から労働基準法が改正され、労働時間が繰り越せる期間が、翌月から3ヶ月先まで繰越可能となり、より柔軟な運用が可能となります。

フレックスタイムの清算期間の日数は1週間または1ヶ月と決められている

清算期間とは

フレックスタイムでは、労働者が働くべき時間を定める期間である精算期間が労使協定によって決定されますが、多くの場合は1週間または1ヶ月となります。この時、清算期間内で平均した、週の所定労働時間が40時間以内に収まっている必要があります。

清算期間が1週間の場合、所定労働時間は「40時間以内」

清算期間が1週間で設定されている場合は、労働基準法で週の上限が40時間と定められているため、清算期間内の所定労働時間は40時間以内で定めます。

  • 1週間の法定労働時間:40時間が上限
  • 1週間の所定労働時間:35時間←OK
  • 1週間の所定労働時間:45時間←NG

清算期間が1ヶ月の場合、所定労働時間は暦上の日数から計算する

清算期間が1ヶ月の場合は、暦の上での日数から、週の労働時間の上限を計算し、週当たりの所定労働時間が40時間以内になるようにして月の時間数を計算します。なお、毎月の所定労働時間は一定である必要はありません。

暦の上では、月の日数は28日、29日、30日、31日のいずれかになるため、月の所定労働時間の平均が表の数字以下になるようにします。

1ヶ月の日数 月の法定労働時間

28日

160.0時間

29日

165.7時間

30日

171.4時間

31日

177.1時間

残業代が発生するのは、その月の法定労働時間を超えた場合になります。所定労働時間を超えた分の全ては残業扱いですが、残業代として割増賃金が発生する時の基準は違いますので注意しましょう。

  • 2月(日数28日)の法定労働時間:160.0時間
  • 2月(日数28日)の所定労働時間:156時間←OK

2月(日数28日)の実労働時間が158時間(所定労働時間は156時間)の場合、実労働時間は2時間所定労働時間をオーバーしているので残業として扱われます。しかし、法定労働時間を超過しているわけではありませんので、使用者側には割増賃金を支払う義務はありません(使用者によっては支給されることもあります)。

フレックスタイム時の残業代の基本的な計算方法

フレックスタイムの残業代の基本的な計算方法をいくつかのケース別に確認してみましょう。フレックスタイムでの自分の残業代が知りたい人は、以下の計算方法を参考にしてください。

フレックスタイムで実労働時間が総労働時間を超えない場合

フレックスタイムで実労働時間が総労働時間を超えない場合の給与計算

実労働時間が総労働時間の枠内に収まっている場合には、満額の給料の支給をうけて翌月に不足分の労働時間を繰り越すか、当月の給与から不足時間分の給与を減額することになります。

  • 例1:1月中の実労働時間が150時間で、総労働時間の枠が160時間の場合は10時間の労働が不足していることになります。この場合、時給を1500円として、当月分の給与を減額する方向で計算するなら、以下の給与になります。

1月:1500(円)×150(時間)=225,000円

  • 例2:1月の給料を満額で支給した場合は、翌月の給料から10時間分を減額して計算します。先の条件で、2月の総労働時間が160時間、実労働時間も160時間だった場合は、次のように計算することになります。

1月:1500(円)×160(時間)=240,000円
2月:1500(円)×{160-10(時間))=225,000円

この時、繰り越した翌月の総労働時間が法定労働時間を超えてしまうなら繰越をすると残業代の支払いが発生するので、企業としては賃金をカットする方向で調整することが多いです。逆に、翌月の法定労働時間に余裕がある場合には、企業は繰越することで残業代をカットするインセンティブが働きます。

フレックスタイムで実労働時間が総労働時間を超える場合

総労働時間の枠を超えた分を翌月に繰り越すことはできないため、総労働時間の枠を超えた分については、残業代が支給されることになります。法定労働時間内であれば、基礎賃金分を、法定労働時間を超えるようなら25~50%の割増賃金が発生します。

  • 例1:1月の総労働時間が170時間で、実労働時間が200時間だった場合、1月法定労働時間は歴日数より177.1時間となります。時給を1500円とすると、この場合の残業代は次の通りです

1月の総労働時間が170時間で、実労働時間が200時間だった場合

1月の残業代:1500(円)×177.1(時間)+1500(円)×{200-177.1(時間)}×1.25
=265,650(円)+42,937(円)
=308,587(円)

  • 例2:1時間あたりの基礎賃金が2,000円で、清算期間は1か月ごととされているとして、清算期間が28日間、清算期間中の総労働時間が150時間となる月に、180時間働いたケースの残業代は次の通りです。

割増賃金が発生する時間=180(時間)-160(時間)=20(時間)
割増賃金の発生しない総労働時間をオーバーしている時間=180(時間)-150(時間)-20(時間)=10(時間)

給与額=2,000(円)×150(時間)+2,000(円)×10(時間)+2,000(円)×20(時間)×1.25
=300,000(円)+20,000(円)+50,000(円)
=370,000(円)

この場合の残業代は精算期間中の総労働時間の超過分70,000円ですが、全ての時間で割増賃金が適用されるわけではないことに注意してください。

  • 例3:1時間あたりの基礎賃金が2,000円で、清算期間は1か月ごととされているとして、清算期間が28日間、清算期間中の総労働時間が160時間となる月に、180時間働いたケースの残業代は次の通りです。

割増賃金が発生する時間=180(時間)-160(時間)=20(時間)
給与額=2,000(円)×160(時間)+2,000(円)×20(時間)×1.25
=320,000(円)+50,000(円)
=370,000(円)

この場合は、割増賃金が発生する20時間分の賃金50,000円が残業代になります。ただし、精算期間中の総労働時間が法定労働時間の枠(160時間)を下回る場合には、法定労働時間の枠内で超過した総労働時間については割増賃金が発生しません。

なお、深夜労働(25%割増)や休日出勤(35%割増)がある場合、その割増率も適用されて、これにプラスされることになります。

フレックスタイムで有給休暇を取得した場合

1月の実働180時間、有給休暇3日の給与計算

フレックスタイム制にも、有給休暇は存在します。有給休暇を取得した場合は、労使協定で定められる「一日あたりの標準的な労働時間」だけ労働したものとみなします。

「一日あたりの標準的な労働時間」の労働があることによって、法定労働時間を超過してしまって割増賃金が発生してしまうような場合、割増計算の対象外となり、通常の賃金で計算します。割増賃金は、あくまで実労働時間のみに適用され、みなしの労働時間には適用されません。

  • 1月の総労働時間が170時間で、実労働時間が180時間、一日の所定労働時間8時間で、有給休暇を3日取得した場合を考えてみます。1月は31日間ありますので、法定労働時間は歴日数より177.1時間となります。時給を1500円とすると、この場合の残業代を含めた給与は次のようになります。

1月の給与額:1500(円)×{180+8×3(時間)}+1500(円)×{180-177.1(時間)}×0.25
=306,000(円)+1,087(円)
=307,087(円)

ただし、有給休暇中の労働時間であっても、会社規定によって割増賃金が認められる旨の特約がある場合はこの限りではありません。

また、有給休暇が半日単位で取得できる場合、労働時間が秒単位で出てきてしまうことがあります。賃金計算上は、分以下は切り上げて計算するために、同じ日数の有休を取得した人でも、半日単位で全ての有休を消化した人と、1日単位で有休を消化した人とではみなしの労働時間や有休による賃金の支給額に違いが生じることがあります。

大きな差にはならないとしても、こうした違いにも注意が必要です。不平等の解消のためには1日の労働時間をキリの良い数字(8時間など割り切れる数字)にする、半日単位の有休取得を認めないなどの項目を就業規則で定めるなどの対策が必要になります。

フレックスタイム制の残業代で違法性が疑われる時は証拠を用意する

フレックスタイム制では、残業代や深夜労働などの賃金計算が複雑になるため、意図的に給与が低く算出されるような計算をしている場合もあります。自分で残業代を確認した際に、大きく計算が違う場合は根拠を示してもらい、納得できない場合は、労働基準監督署や弁護士などに訴えて改善指示をしてもらったり、不足分を支給してもらったりすることが可能です。

残業代の指導要求のためにはタイムカードの記録や給与明細などの証拠が必要

第三者機関では基本的に証拠がなければ指導や是正要求を行うことはできません。タイムカードの記録などの勤怠時間を示すための証拠や、就業規則、実際に支給されている金額が書かれた給与明細など、客観的な証拠を示す必要があります。指導などの際には、誰が通報したかについては完全に隠されますので、安心して相談してください。

フレックスタイムは労働者が出社時間と退社時間を決められる制度

自宅で赤ちゃんの様子を見ながら腕時計を確認する男性

フレックスタイム制がどのようなものなのかが曖昧になっていると、他の議論も曖昧になってしまいます。どのような形で自分の雇用契約が結ばれているのか、どのような就業規則の下で働いているのかを把握することが今後の労働市場では特に重要なことだといえます。

フレックスタイム制とは、労働者が出社時間と退社時間を決めることができる制度です。フレックスタイムは時間の自由度が高い制度ではありますが、毎月や毎週など「清算期間」と言われる期間ごとに、就労を必要とする労働時間(総労働時間)が定められている点に特徴があります。

フレックスタイムとは?導入のメリットとデメリット

昔は制度設計がうまくできておらず、総労働時間やコアタイム(必ず出社を求められる時間)などの取り決めがないまま運用されているフレックスタイム制も多かったのですが、今は制度について細かく決まりがありますので注意しましょう。

労働効率を高めたりワークライフバランスを整えたりするためのもの

基本的にフレックスタイム制は、業務時間を画一的に定めることによる非効率がある仕事などを対象にして、就労規則などで定めがあるものです。労働効率を高めることや、従業員のワークライフバランスを整えるため、やる気アップなどを目的に行われるものであり、人件費の圧縮を主目的として行われるべきものではありません。

ワークライフバランスとは仕事と生活の調和を維持する術のこと

フレックスタイム制の労働時間は裁量労働制より自由度が低い

フレックスタイム制度とは、労働者自身が出社時間と退社時間を決めることができる、変形労働制と言われる制度の中のひとつの形です。「出社時間と退社時間を決めることができる」ことは、自動的に「労働時間を定めることができる」と解釈することもできます。

海外では導入例も多いフレックスタイムですが、日本ではあまり根付かず、そのイメージも他の就労形態と混同されてしまいがちです。「労働者は与えられた業務を完遂するために必要と思われる労働時間を自主的に設定し、予定内に終わらない場合は自己責任で労働時間を延長し業務を完遂させる必要がある」と考えている人が多いのですが、これは裁量労働制の考え方であり、フレックスタイム制度ではありません。

裁量労働制は特定の業務に就く人に対して、個人の裁量で労働時間や業務を行う場所などを定め、一定期間ごとに、実際の時間などによらず、みなし労働時間分の労働を行ったとみなす制度です。一般的にはフレックスタイム制よりも労働時間の自由度は高くなっています。

「第三十二条の三 使用者は、就業規則その他これに準ずるものにより、その労働者に係る始業及び終業の時刻をその労働者の決定にゆだねることとした労働者については、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めたときは、その協定で第二号の清算期間として定められた期間を平均し一週間当たりの労働時間が第三十二条第一項の労働時間を超えない範囲内において、同条の規定にかかわらず、一週間において同項の労働時間又は一日において同条第二項の労働時間を超えて、労働させることができる。」

労働基準法32条の3にはこのような内容がありますが、これは清算期間を定めておき、清算期間における一週間あたりの労働時間が法定労働時間(40時間)を守っていることが条件という意味になります。フレックスタイムだからどれだけでも働いて良い、働かせて良いということではありません。

フレックスタイム制の残業については就業規則を確認し正しい知識を得よう

フレックスタイム制は裁量労働制と混同されていることも多く、そのために残業代が発生しないものと考えている人が少なくありません。しかし、制度上は残業代が発生することになっていますので、就業規則などを見て必ず残業代に関する内容を確認しておきましょう。

しっかりと残業代が支給されていないと思われる場合は、必要と思われる客観的な証拠をもって、労基署や弁護士などの第三者機関に相談するようにしてください。まずは、ここで紹介した残業代の計算方法を含めたフレックスタイムについての正しい知識を得ることが、自分の給与や生活を守るために大切です。