制度/手続き

男性の育児休業制度の取得を進めよう

男性による育児休業の日本における取得率は2016年度に調査開始以来、過去最高を記録しました。しかし男性が育休を取ることに、いまだデメリットがあります。男性の育児休業取得についての現状とこれからを解説します。パパとしても会社員としても活躍するために必要な知識ですのでシッカリ学びましょう。

男性も取得できる育児休業とはどのような制度か?

男性育児休業とは1999年に施行された「育児・介護休業法」に定められた、仕事と家庭の両立支援制度によって取得が認められている育児を目的とした休暇のことを指します。

その歴史をさかのぼると、育児休業制度自体は1972年に勤労福祉法で制定されましたが、制度の対象は女性にとどまり、実際の運用も雇用主の努力に任されている状態でした。その後、出生率の低下が本格的に進行し始めたことを受けて、母親のみではなく父親も一緒に育児をすることの重要性が見直される運びとなり、1992年に施行された「育児休業等に関する法律」において、ようやく男性も育児休暇の取得が可能になりました。男性が育児休業を気軽に取得することで、より一層子育てに参加することが期待されています。

男性が育児休業制度を取得することを推進する目的

男性育児休業制度は積極的に子育てをしたい父親の思いを叶えるとともに、母親の仕事への復帰を促進することが主な狙いとなっています。また深刻化する一方の日本における少子化問題に歯止めをかけるべく、安心して子どもを産み育てられる社会を目指して、厚生労働省が中心となって推進している制度です。

男性の育児休業取得率の現状と問題点

2010年には、具体的な数値目標として2020年に男性の育児休業取得率13%を達成することが厚生労働省によって設定されました。目標値については、1995年6月に閣議決定された「日本再興戦略2015」においても明記されています。

しかし実際の男性の育児休暇取得率は2016年度においては3.16%でした。1996年の調査開始以来、最高値ではありますが、目標値である13%にはほど遠い取得率となっています。目標値達成の見通しがなかなか立たないなか、外部有識者会議にて、男性の育児休暇取得率を上げる施策を検討されています。

20代の若手男性を中心に、育児休業取得への意欲が高まっているとの調査結果があります。また、前述のように制度も整備されている状況であるにもかかわらず、男性の育児休業取得率は微増にとどまっています。

男性が育児休業制度を取得することに理解がない職場環境が多い

育児休業取得率が上がらない最も大きな原因として考えられるのが、男性が育休を取得したくてもできない職場環境です。「マタニティ・ハラスメント」は一足先に社会問題として大きく取り上げられてきましたが、上司が男性部下の育児休暇取得を妨げる「パタニティ(=父性)・ハラスメント」、パタハラも身近な問題となっています。

「育児は母親の仕事」という考え方から抜けられない上司と、育休を取得したい若手男性社員の間にある世代間のギャップを企業において埋められていない現状が浮き彫りになっています。

パタハラ経験者に聞いた!職場での対処法と防止対策

育児休業を取得することで同僚に負担が増えるかもと考える男性が多い

中小企業を中心に、ぎりぎりの人員で仕事を回している職場は少なくありません。突然休暇に入るわけではないとはいえ、自身が育休を取得することで同僚の仕事の負担が増加するのではないかという罪悪感から、育休取得の希望を言い出せない人が多いと考えられています。

育児休業を取得すると人事評価が下がるのではという不安がある男性が多い

現在、法律上では男女ともに育休取得を理由とする不当な人事的扱いは禁止されています。しかしながら実際は、育休からの復帰後に出世街道から外されてしまったり、不当な配置異動を言い渡されたりする問題が起きています。不当な人事評価に対する不安が、積極的に男性が育休を取得することの障害となっています。

男性の育児休業を応援する制度は2つ

育児休業制度は、子が1歳(一定の場合は、最長で2歳)に達するまでに申し出をすることで、父親・母親のどちらもが取得できます。制度の概要をよく知っておくことで、各家庭のライフスタイルに合わせて父親・母親がそれぞれ育休を取得できます。夫婦間、さらに育児に協力してもらう祖父母ともよく話し合い、育休の取得の仕方をあらかじめ計画しておくようにしましょう。

1 パパ休暇

父親が育休を二度取得できる「パパ休暇」制度があります。この制度は、母親の出産後8週間以内の期間内に、父親が育児休暇を取得した場合には、特別な事情がなくても、再度、父親が育児休暇を取得できます。

「パパ休暇」取得の要件をまとめると、子の出生後8週間以内に育児休業を取得していること、そして子の出生後8週間以内に育児休業が終了していることとなります。1度目の休業は産後の母親をサポートすること、2度目の休業は母親の職場復帰をサポートすることが目的です。

2 パパ・ママ育休プラス

「パパ・ママ育休プラス」という制度では、父母ともに育児休業を取得する場合、子が1歳2か月に達するまでの間の1年間に延長されます。「パパ・ママ育休プラス」取得の要件は3つあり、1つ目は配偶者が子が1歳に達するまでに育児休業を取得していること、次に本人の育児休業開始予定日が子の1歳の誕生日以前であること、3つ目が本人の育児休業開始予定日が配偶者の育児休業の初日以降であることです。なお1人当たりの育休取得可能最大日数(産後休業含め1年間)は変わりません。

育児休業中は男性でも育児休業給付金がもらえる

育休取得期間中に賃金が支払われないといった、一定の要件を満たす場合には「育児休業給付金」が支給されます。言うまでもなく育休取得中の男性にも支給されます。2014年には、育児休業給付金は育児休業開始前賃金の給付割合の50%から67%に引き上げられました。なお、休業開始から6ヵ月経過後は50%となります。

また、育児休業給付金は非課税であるため、所得税はかからず、翌年度の住民税算定額にも含まれません。さらに、育児休業中の社会保険料は、労使ともに免除されます。給与所得が無ければ雇用保険料も生じないことから、手取り賃金で比べると結果として休業前の最大約8割になると算定されます。つまり育児休業給付金が拡大されたことで家計に対する不安も軽減され、男性の育休取得のチャンスが広がったといえます。

企業の風土や上司と部下の世代間ギャップ、人事評価に対する不安などから、いまだ積極的な男性の育休取得が難しい状況です。日本の社会全体で子育てをサポートしていくために、男性の育休取得を促進する制度が整えられつつあります。

男性が気軽に育児休業を取得するために心掛けたいこと

男性の育休取得について制度が整っているとはいえ、職場環境の問題や実務上の不安はどうしてもつきものです。育休を取得する本人が休暇に入る前と復帰後に心がけるべきこと、また職場の上司ができることがあります。

育児休業に対する職場の理解と協力を得られるように努力をする

男性の育休取得は当然の権利であり、突然の休暇ではなく計画的に取得するものであるとはいえ、休業中には必ず職場の誰かが何らかのかたちでサポートしてくれることになります。快く育休へ送り出してくれる同僚や上司に対する感謝の思いを伝えるとともに、実務上でできるかぎり迷惑をかけないように努めるべきです。

具体的には「育休をいつ頃取得したいのか」を予めしっかりと相談しておくことが必要です。育休取得のタイミングは、チームで担っているプロジェクトの進行などにも係わってくることでしょう。また、自身が現状で担っている職務について休業に入るまでに時間に余裕をもって同僚や上司へ情報共有をしておくことが重要です。直前になっての慌ただしい引継ぎは、同僚や上司の負担を大きくすることになります。

そして何より大切なのは、同僚の育休取得についても積極的にサポートすることです。困ったときは互いに助け合うという基本的な行動をとることで、職場の育休取得に対する理解が深まり、男性も取得しやすい雰囲気づくりが出来ることになります。育休からの職場復帰後は、次に取得する男性に対してのアドバイスをしたり相談を受けたりすることも非常に良いでしょう。

育児休業をよく理解している「イクボス」が「イクメン」をサポートする

子育てに積極的に関わる男性を「イクメン」と呼ぶようになって久しいですが「イクボス」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。「イクボス」とは、部下の育児参加に深い理解を示しサポートする上司を指します。マネジメント職である上司が、部下の育児参加を積極的に応援する姿勢を示すことで、男性も気兼ねなく育休の取得を申し出ることができる風土を作り出します。

厚生労働省による「イクメンプロジェクト」のWEBサイトでは「イクメン宣言」「イクメンサポーター宣言」をすることが可能です。職場のマネジメント職が積極的にこのような宣言をしてサポーターに回ることによって、男性の育休取得率アップに大きな効果が期待できます。

男性が育児休業を取得することに理解を深め、社会全体で育児をサポートしよう

2020年の男性育休取得率13%は、現状では遠い目標値といわざるをえません。しかしながら、企業がそれぞれ男性の育休取得をサポートしていくこと、イクボスが声を上げて職場の雰囲気を変えていくこと、そして若手男性が自身で育休に関する情報を積極的に集めて制度を理解することで、少しずつでも状況は変わっていくでしょう。少子化を食い止め、日本の未来を明るくするためにも、各々の立場で男性の育休への理解を深めていき、育児をサポートできる社会づくりが今求められています。