接客業のストレスを充実感に変える考え方

接客業にはストレスが多く存在します。「お客様はカミサマ」のイメージが強いこの業種にはストレスがつきものと諦める人も多いでしょう。実はストレスに勝る充実感を得るきっかけは接客業にこそ多いのです。「お客様はカミサマでなくお客様だ」という観点から、ストレスを充実感にする考え方を解説します。

接客業のストレスを充実感に変える考え方

接客業でのストレスは避けられない

サービスを利用した人が笑顔になってもらうことを願い、精一杯対応した結果、お客様から「ありがとう」と笑顔で返してもらえるときの幸せは、接客業ならではの醍醐味です。

しかし、現実はそんな幸せだけにあふれたものではなく、お客様にも様々な方がいらっしゃいます。接客マナーやお店のルールを守っていたとしても、非常に理不尽な理由でお客様に頭を下げなくてはならない場合も時としてあるのです。

そのような状況で発生する接客業のストレスを軽減・解消するには、まず自分の考え方や心の持ち方を変える必要があります。今回は、お客様とお店の関係性に触れながら接客業のストレスに打ち勝つ方法をまとめました。

接客業でストレスを呼ぶのは「お客様はカミサマです」という考え方

お客様はカミサマですと、頭を下げる男性

誤る必要がないのに謝らなければいけない状況はなぜ存在するのか。これには日本の接客・サービス業界で慣習のように蔓延している「お客様はカミサマです」という考え方が関係しています。

多くの人が耳にしたことのあるフレーズでしょう。まずは賛否両論あるこの考え方について知り、お客様と店側の関係はどうあるべきか考えてみましょう。

「お客様はカミサマです」の由来

「お客様はカミサマです」という言葉は、1961年頃に三波春夫さんと宮尾たか志さんの対談で生まれた言葉です。三波さんは、「歌うときに、神様の前でお祈りをするように雑念のない状態でいなくては最高のパフォーマンスを見せられない」という気持ちからこの言葉を使いました。

もちろん、この言葉に含まれているのは歌手としてオーディエンスを大切に想う気持ちです。まさか世のクレーマーの免罪符となる思想を生み出すとは思ってもいませんでした。この状況に三波さんは「じゃああなたは神様からお金や何かをもらったことがありますか」と仰っています。

「お客様はカミサマです」がもたらす弊害とストレス事例

クレーマーや尊大な態度のお客様の味方であるこの言葉。発言者から完全に独り歩きしてしまった「お客様はカミサマ」という言葉が、今世の中に与えている影響とは一体なんなのでしょうか。

店員を黙らせる切り札として使う人たちは、一体どんな思考の末に使うのか、2つの事例を見てみましょう。

客の言うことを聞けと威張る女性客

ケース1 神様だから食べ物は粗末にしてもいい

いちご狩りの施設で一部分の美味しいところだけを食べて後は棄ててしまうお客様。この事例は当事者たちを飛び越え、ネット上で論争にまでなりました。しかし、よく考えてみればモラルの欠如という“客と店”のくくりとは別の問題です。もし「自分が育てたいちごでもそうするのか?」という問いに対する答えがYESだというのなら、お店としてはこのお客様とはお別れしてもよいでしょう。

ケース2 出前のお皿は洗わなくてもいい

某芸人さんの番組で取り上げられた事例です。お客様のうち24%が出前の空いた食器を洗わずに返すというデータが出され、理由として「自分の仕事じゃない」「洗うならお金をよこせ」というものが紹介されました。芸人さんの「“お客様はカミサマです”はお店が言うもので、客側が言うものではない」という率直な意見に、接客業従事者でなくともすっきりした人は多かったようです。

そもそも、自分を神様だと思っている人たちは、「お金を払っているのだから何をしても許される」と思っていることがこれらの事例から読みとれます。「サービスを利用してやっている」「お金を支払ってやっている」その考え方の前には本来備わっているはずのモラルさえ薄れさせてしまうのです。

いっそ、そういったお客様のことはモラルやマナーを認識できない「子ども」だと考えてみます。子どもが間違ったことをしないようにしっかりと見守り、フォローし、時には正解に導くように自分の知識を活用する。子どもを喜ばせるため差し出すおもちゃのことを勉強するように、自分の売っている商品にも詳しくあろうとする。そして子どもが満足するのなら、とても理想的な関係性といえるでしょう。

接客業のストレスを減らす「お客様と店員は対等な立場」という考え方

お辞儀しながら対応する女性

過剰なまでに「お客様はカミサマです」という誤った主張でマウントをとろうとするクレーマーに対し、企業やお店がとった毅然とした対応の事例を2つご紹介します。

ケース1 いいえ、お客様は神様ではありません

某空港の格安航空会社のカウンターで、持ち込み荷物が重量オーバーになった男性に追加料金を求めた際のやり取りです。支払いを渋った末「お客様はカミサマだよ!覚えておきなさい!」という発言をした男性に対し、スタッフが「いいえ、カミサマじゃないです」と返しました。一見スタッフの方が非難にさらされそうな流れですが、「そもそも低料金と引き換えに様々な面でサービスを抑制しているこの会社に神様扱いを求める方が間違っている」という意見が相次ぎました。

ケース2 ほかの神様のご迷惑です

有名ハンバーガーショップでもほぼ毎日のように発生するクレーム案件。すべてが理不尽なものというわけではないですが、その中の一つの事例を挙げます。
お店の中で店員に対し「お客様はカミサマだろ!」と怒鳴っている方がいました。すると店員は、「ほかのカミサマのご迷惑になるので」と悪い神様を論破したそうです。こんなうまい返しをされてしまうと、クレーマーも一瞬口ごもってしまいます。

スタッフだけでなく、周囲のお客様にも悪影響を与える存在は神様などではなく、そしてお客様でもないとしっかりと線引きをする。いきり立って冷静さを失った人相手に、あいまいな「申し訳ございません」という対応でクレーマーを勢いづかせないためには重要な考え方です。

接客業でお客様と対等に向き合う際の注意点

「お客様は神様ではない」と認識したときに陥りやすいのが、こちらが優位であると勘違いしてしまうことです。クレーマーをおさめるために毅然とした態度が必要なら、それ以外のモラルとマナーにのっとって行動してくれるお客様にも相応の対応が必要となります。

1 感謝の気持ちを忘れない

対等に向き合うというのは、お客様と友達のような距離感になることではありません。利用してくださること、来店くださったことに感謝の気持ちを持つことこそが、同じ目線でお店と商品を見ているということになるのです。

2 問い合わせに対し真摯に応える

お客様に笑顔になってもらいたいのであれば、自分が知っていてお客様が知らないことはしっかりと伝えられる準備を整えましょう。そのためには、日々、自分の扱う商品やお店の考え方、ルールの情報を更新しておく必要があります。

3 「また来たい」と思ってもらえる丁寧な対応を意識する

メニューを差し出して接客する店員の女性

接客には一期一会の気持ちが大切です。たくさんのお客様を相手にする接客側からすれば“大勢のうちの一人”という感覚を持ってしまいがちですが、お客様側からすればそうではありません。いい加減な接客をすれば、「こんなテキトーな店員がいる店はもう利用したくない」と思われる可能性があります。逆に、丁寧な対応を心掛ければ「また利用したい」「また来たい」と思ってもらえるでしょう。

あなたの行った良い接客によって、お客様が再度ご来店くださることこそが接客業の醍醐味のひとつです。お客様の立場に立ち、自分が接客されたときにリピートしたいと思える対応を心掛けることを忘れてはいけません。

接客業でのアルバイトと店長・ポジション別の考え方

同じお店の従業員でも役割とポジションがあります。実は、どんな肩書の人に対応してもらったのかをお客様が気にすることはほとんどありません。ネームプレートが「店長」となっていれば安心はするでしょうが、一般の店員がその店長よりクオリティの低い接客をするものだと決めつけて考えている人はそういないでしょう。

しかし、必ず存在する組織の階層の中で、どのような心構えが必要かを知っておくことは重要です。

アルバイト

まずは、お店が大切にしていること、考え方をしっかりと自分のものにしましょう。前述したとおり、お客様にとってはアルバイトも店長も、その店のスタッフであることに変わりはないのです。

クオリティの高い接客をした後にアルバイトだとわかったとき、褒められることはあっても失望されることはありません。万が一、対応に失敗しクレームが発生してしまったら、隠さず正確に事情をお店へ報告した上で指示を仰ぎましょう。自己判断での対応は問題を大きくするだけだという認識を持つことが、お客様、お店、自分すべてのためです。

もう一つ階段を上がるのなら、その知識を後輩に正確に伝えられるようになることと、自分のアルバイト賃金がどんな流れで生まれてくるのかに興味をもっておくことをお勧めします。

店長

謝罪する店長

店長には、お客様にしっかりと対応できる人材の育成と同時に、お店とスタッフを守る使命があります。理不尽なクレーマーからほかのお客様やスタッフ、お店のイメージを守るためには何が大切なことなのかを把握しておくことが必要です。

時には、管理責任者として理不尽な言い分にも頭を下げることがあります。また逆に、店長であるからこそ毅然とその言い分に立ち向かわなくてはいけない機会もあるのです。その線引きは、お店がどんな考え方の元に成り立っているかほかのお客様やスタッフへの悪影響を最小限に抑えるという観点で判断してください。

真摯な対応が伝われば、クレームにまで発展した怒りはおさまります。それでも分かってもらえないのなら、お店やスタッフ、ほかのお客様を守るために“その方はお客様ではない”と判断することも重要です。

また、人材育成という観点でワンランク上の意識を目指すのであれば、アルバイトのスタッフに自分の給料はどのように発生するのかを説いておきましょう。接客、店の清掃、在庫の管理、販促。そのすべてにコストと見込み利益があることに加えて、結果として時給換算した給与に還元されるルートを理解させることが、一つ一つの業務のクオリティを上げる鍵となります。

接客業の「win-win」はお客様の笑顔とありがとうが生む

居酒屋で料理を持ってくる店員とお客の笑顔のやりとり

店員とお客様とのあいだにおける最善な関係性は、前述した通り、“お客様はカミサマではない“という考え方のもと、対等に向き合うためにお互いがお互いにとって利益をもたらす関係であることです。

サービスを受けて満足するお客様と対価を得る店員、この二つのバランスが保たれていることが理想ですが、字面では見えない気持ちもこの「win-win」の中には含まれていることを忘れてはいけません。

期待以上のサービス以上を受けて幸せになるお客様と、笑顔とありがとうの言葉をもらいお金以上の充実感を得る店員。お客様によっては、その後SNSや口コミサイトでお店のすばらしさを広めてくれるでしょう。そのことにより、お店側もまた利益とブランド力を上げることになるのです。

接客業のストレスに勝つ!「いらっしゃいませ」を心から

1日8時間、週40時間、月160時間等の勤務時間に関係していくたくさんのお客様とのやりとりを、ストレスという悪影響に流されてずさんにしてしまうのはとてももったいないことです。

お店にとって、お客様は“カミサマ”から“利益を相互に提供し合う対等な存在”となってきています。一部の理不尽は早々に切り替えて、笑顔と幸せをくれるお客様を心からの「いらっしゃいませ」でお迎えしましょう。